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骨盤臓器脱に対する外科的療法

ペッサリー療法ができなかったり効果がなかった方、手術を希望される方には、外科的療法を選択します。手術方法は非常に多く、患者さんのご年齢、過去の手術歴、脱出の重症度、全身状態、お持ちのご病気など様々な条件に基づいて、最適な手術方法を提示します。
手術は、下垂している骨盤臓器を元の位置に戻し、再び下りてこないようにする目的で行われますが、手術のタイプについて大きく分けると、再建手術と腟閉鎖手術の2つとなります。再建手術には医療材料のメッシュを使用する手術と、ご自身の組織を使用する自己組織修復術との2つがあります。手術をどうやって行うかという方法については、開腹手術、内視鏡手術(腹腔鏡やロボット支援下手術)、経膣手術があります。
各手術の良いところ、弱点を説明して、総合的に手術の方法を決定していきます。
現在保険診療で行うことのできる手術について以下に紹介します。

1 手術のタイプの違い

経腟手術について

腟内から手術をします。傷は腟内にありますので、体の表面からは殆ど分かりません。

内視鏡手術について

腹腔鏡手術

お腹の表面に1cm前後の傷が数箇所できますが、その部分より手術器具を入れ、手術を行います。

腹腔鏡手術

​腹腔鏡手術

経腟腹腔鏡手術

 (transVaginal Natural Orifice Transluminal Endoscopic Surgery; vNOTES)

近年、経腟的に腹腔鏡を行う手術方法が広まってきています。
この手法は、お腹を切らず、腟から腹腔鏡下手術用の内視鏡カメラや医療器具を挿入しながら行うため、外から見える創部はありません。

経腟腹腔鏡手術

経腟​腹腔鏡手術

ロボット支援下手術

腹腔鏡手術は、手術器具を医師が持って操作しますが、ロボット支援下手術ではロボットに手術器具が接続されており、ロボットを医師が操作します。
腹腔鏡と同じような傷あとで手術が可能です。ロボット手術で使う手術器具は人間の関節よりも自由に360度動いたり、手ブレがないために狭い骨盤内で行う手術が繊細にできるというメリットがあります。

ダビンチXiサージカルシステム_ペイシェントカート.jpg

手術ロボット 「製品名/ダビンチXiサージカルシステム」

インテュイティブサージカル合同会社

ロボット支援下手術
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2 自己組織修復術

(Native Tissue Repair; NTR)

NTRはご自身の組織を用いて、弱くなっている支持組織を修復する方法です。腟内から手術を行う経膣手術には長い歴史があり、有効性や合併症に関するエビデンスが多い方法です。
経腟手術での自己組織修復術後の再発率は、メッシュ手術(経腟メッシュ術や仙骨腟固定術)には劣りますが、低侵襲な手術として行われています。また、骨盤支持組織の損傷部位それぞれに対して術式を決めていくことができます。
腟内から手術を行う経腟手術が以前より行われてきましたが、現在では内視鏡手術によって行われることも増えてきています。

①腟の一番奥の支持

子宮下垂に対して(子宮脱)

子宮下垂がある場合、一般的には腟から子宮を摘出する手術を行い(腟式子宮全摘術)、腟の一番奥の部分を再度下りてこないようにするために、靭帯(仙骨子宮靭帯や仙棘靭帯)に固定します(腟断端挙上術)。どちらの靭帯に固定しても、有効性や合併症率は同じように有効とされています。ご自身の組織を使っての補強であるため、再度手術した所と同じ部分が弱くなってきたり、補強した以外の場所が改めて弱くなってきて再発してくることがあります。手術方法は様々で報告によっても再発率は異なりますが、この手術を行った2年後の時点で約3割強の方に再下垂を認めたとする報告もあります。

小腸下垂に対して(小腸瘤)

腟の一番奥の部分が弱くなり下垂が起こりますが、上記同様に腟の一番奥の部分についての支持・補強によって対処します。

②前腟壁の支持

膀胱下垂に対して(膀胱瘤)

前腟壁の支持が弱くなり膀胱瘤を生じている方には、腟と膀胱の間に存在する筋膜を修復し再建する前腟壁形成術を(下図)行います。多くの方で腟の一番奥部分の下垂を伴っていますので、前述の腟断端挙上術を組み合わせる方法が前壁支持にも有効です。

前膣壁形成術

前腟壁形成術

③後腟壁の支持

直腸下垂に対して(直腸瘤)

後腟壁が損傷し直腸瘤を生じている方は、直腸と腟壁の間の結合組織を縫合修復する手術を行います(右図)。また、腟の支持に役立っている会陰体の修復を行うことも有用です(会陰体形成術)。

後膣壁形成術

後腟壁形成術

会陰体形成術

会陰体形成術

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3 メッシュ手術

弱くなってしまったご自身の組織の代わりに、補強の骨組みとなる医療用材料であるメッシュを腟粘膜の下に挿入して骨盤臓器の支持を行う手術です。自己組織修復術と比較し、再発率の低い手術方法となります。
経腟的に行うメッシュ手術(transvaginal mesh;TVM手術)、内視鏡を使って行う仙骨腟固定術があります。

仙骨腟固定術

本術式は、元々は開腹手術でメッシュを用いて腟先端を挙上する目的で始められた方法ですが、現在は腹腔鏡またはロボットを用いて行われることが一般的となっています。
子宮については体部部分を摘出する腟上部切断術を併用することが多くあります。子宮を以前に摘出されていて、腟断端脱のある方にも行えます。
腟前壁と膀胱の間、腟後壁と直腸の間にメッシュを挿入して固定します。もう一方の端を仙骨前面の靭帯に固定します。
再発率が低いことがメリットとして挙げられます。
メッシュ関連の合併症はステロイド長期使用の方や、喫煙者の方で多いとされています。

仙骨膣固定術

仙骨腟固定術

経腟メッシュ手術

腟から行うメッシュ手術です。
腟前壁と膀胱の間、腟後壁と直腸の間にメッシュを挿入しますが、メッシュから伸びたアームが腟の周辺の靭帯や筋膜を通ることで固定されます。
仙骨腟固定術と比べて、比較的短時間に行うことができ低侵襲であること、自己組織修復術に比べて再発率が低い手術方法ですが、海外ではメッシュが腟内に出てきてしまう露出や感染といった関連合併症の報告があります。日本では基準を満たした医師が十分な説明の上行っており、合併症については全国登録しています。

経膣メッシュ手術
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4 子宮を摘出せずに行う再建手術

子宮を温存して行う手術について紹介します。
先に紹介した仙骨腟固定術では子宮頸部が、また経腟メッシュ手術(TVM手術)では子宮全体が温存されることが多くあります。
自己組織修復術には多数の手術方法があり、子宮全摘を伴わない手術もあります(マンチェスター手術、子宮温存した状態での挙上術)。
また、最近では内視鏡手術によって子宮頸部を周囲の筋膜や靭帯にメッシュを用いて固定する方法が行われることがあります。

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5 腟閉鎖術

腟閉鎖術は前後の腟壁表面(膀胱側と直腸側の腟壁)を縫い合わせることで、下垂する骨盤臓器の通り道である腟腔を狭めたり、完全に閉じる手術です。子宮を温存して部分的に閉鎖する手術(Le fort手術)と、子宮摘出後の方で全体を閉鎖する手術とがあります。同時に腹圧性尿失禁に対する手術や、会陰体形成術を併用することがあります。
腟を閉鎖してしまうため性交渉はできなくなるため、今後の性交渉を希望しない重い合併症のある方、ご高齢で長時間の手術が困難である方に対して、第一選択となります。
子宮を温存して部分閉鎖を行うと、子宮頸がん検診が行いにくくなりますので、子宮に悪性疾患がないことを確認する必要があります。

中央膣閉鎖術

中央腟閉鎖術

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6 腹圧性尿失禁手術(TVT手術/TOT手術)

腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみで尿漏れが起こる状態です。
通常、骨盤臓器が腟内へ下垂・脱出してくる際には、尿道が圧迫されていたり曲がってしまったりするために、排尿がしにくい状態となっています。骨盤臓器脱がペッサリー療法や、手術療法によって改善されると、これまでに認めなかった腹圧性尿失禁が生じてくることがあります。
骨盤臓器脱の手術と同時に行うか、手術後に生じた場合に行うか、どちらが良いかは明らかにはされていません。
手術方法として、現在は中部尿道スリング手術が一般的に行われています。尿道の下に細いテープ状のメッシュを埋め込みますが、このテープが腹圧がかかった時のみストッパーとして働き、尿漏れを防ぎます。
テープをどこに通すかの違いで、TVT手術、TOT
手術とがあります。腟に1箇所、恥骨の上あるいは太ももの内側に2箇所の傷のみで手術が可能です。手術時間が短く、体への影響が少ない手術です。
治療効果は80~90%に認められる、非常に満足度の高い手術です。

尿もれの手術
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このように、骨盤臓器脱に対する治療はたくさんの選択肢があります。
患者さんのライフスタイルや全身状態、症状、臓器脱のタイプに合わせてベストな治療を一緒に選択しています。

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