保存的療法で用いられるペッサリーについて
骨盤臓器脱と診断された方について、生活習慣などについての管理を行いながら、ペッサリーという医療用装具を使うことがあります。大きな合併症が起こることが少ないため、まず第一選択として試すことが多い治療法で、長期間この治療を続けられている方もいらっしゃいます。形や材質、様々な種類のペッサリーが使われています。治療にあたっては、病院で使用方法や注意点をよく聞いていただいた上で使用していくことが大切です。
1 ペッサリー療法とは
骨盤臓器脱に対して行われるペッサリー療法は、重い合併症を生じる可能性が低いことから、第一選択として行われることの多い治療です。特に、外科手術を避けたい、今後の妊娠を考えている、手術が危険と考えられる医学的な問題がある方に有効な治療法です。欧米のガイドラインでは、どのような病状の方にも推奨されています(1,2)。(cf 本邦POP-Q StageII以上に対し推奨)起こることが多い合併症には、おりものの増加、出血、腟粘膜の荒れ、違和感などがあります。
2 ペッサリーの種類
保存的療法で用いられるペッサリーの種類には、非常に様々なタイプがあります。
ペッサリーのタイプには、骨盤臓器の位置をサポートするタイプ(通常、軽症から中等症の方に)と、骨盤臓器が下垂してくる通り道である腟を塞ぐタイプ(通常、進行している方に)の二つがあります。
現在、日本で使用ができるペッサリーには以下があります。
これらペッサリーの種類によって、材質や形に様々な特徴があります。一般的によく使われているのはリング型となります。
サポート型 支持型
リング
サポートリング
ノブ付きリング
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約70%の女性に適合
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サイズ多い
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自己着脱が簡便
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ノブ付きは腹圧性尿失禁合併症例に有効
充填型
ドーナツ
ゲルホーン
キューブ
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Ⅲ-Ⅳ度のPOP症例に有効
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直腸に関する症例に有効
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性器に広い裂肛を持つ患者
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キューブ型は脱出を繰り返す症例に有効
CooperSurgical社 Milex™
ペッサリーの種類によって価格が異なるため、通常の保険を使った診療では使用できる種類が限られることがあります。取り扱いのリングの種類は、骨盤臓器脱の診療をしている病院によっても異なりますので、かかりつけ医師にご相談してください。
3 使用方法
実際の例として、リングペッサリーを挿入した例を下に示します。リングペッサリーを腟内に挿入し、下垂してくる臓器を支持することによって症状を改善します。
例えば、ウォーレスリングペッサリーには外径50mmから110mmにわたって16種類のサイズがあります。その方にとって小さすぎるとリングが自然に脱出してしまい、大きすぎると違和感を生じたり、腟の粘膜が圧迫されて出血したり潰瘍を作ることがあるので、病院での診察で適切なサイズを選んで使用してくことが、うまく続けられるコツになります。約9割の方で上手くサイズフィッティングができるとされています(3)。
リングペッサリー
ペッサリーを長期間使用すると、腟の粘膜が圧迫されて出血をしたり、その部分にびらんができたりすることがあります。そのため、数ヶ月おきに腟粘膜の状態をチェックする必要があります。定期的にペッサリーを外して、病院で出し入れを管理する方法と、ご自身で出し入れする方法の二通りがあります。ペッサリーの種類によっては、毎日夜間にご自身で取り外す必要のあるタイプがあります。いずれにしても、主治医の指示を守って使用をすることが、合併症なく継続するために重要です。
ご自身でペッサリーの着脱が可能になると、通院回数を減らすことができ、性交渉の支障にならない、おりものや出血といったマイナートラブルを減らすことが期待されます。実際にペッサリー自己管理法は病院管理法と比べた場合に、有効性は損なわれず、合併症は少なくなるということが報告されています(4)。
自己着脱法はまだ一般的に広まっていませんが、丁寧な説明と指導を受けて頂くと、最初は抵抗をお持ちの方でも上手に自己管理ができるようになり、満足度が高い方法です。
4 補足
①CTやMRI検査
ペッサリーを装着した状態で撮影が可能です
②合併症
大きすぎるペッサリーや長期間の使用、特にペッサリーを留置したまま放置した場合に、腟の粘膜内にペッサリーが入り込んでしまう合併症(膀胱腟瘻・直腸腟瘻)が稀に生じます。
骨盤臓器脱がご高齢の方に多い病態であるために、ペッサリーを留置したまま認知機能低下が生じ、気づかれないままに放置されることがあります。ペッサリーの放置を防ぐためには、ご家族の方にも治療内容を把握しておいて頂く、またかかりつけ病院での状況把握が重要です。
③ ペッサリーを使用できない方、注意が必要な方
腟や骨盤内に炎症がある方、定期的な通院ができない方には使用ができません。
腟の粘膜下にメッシュが挿入されている方、抗凝固療法や抗血小板療法などを受けておられる方が使用する場合には、注意が必要です。
5 保存的療法で用いられる装具について
骨盤底をサポートする目的で、様々な装具が利用できます。
ペッサリー療法に抵抗がある方、痛みや出血などによりペッサリー療法ができなかった方、持病で手術を受けられない、もしくは手術を希望されない方などにお勧めです。
サポート下着
フェミクッション(三井メディカルジャパン)
フェミクッションは骨盤臓器脱の治療と予防を目的とした、医療機器です。
表面がシリコンでできたクッションで臓器を腟内に戻し、ホルダーとサポーターで押上げて保持することで症状を緩和します。他の人に知られ難いように配慮し、下着のように見えるデザインとなっています。
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骨盤底サポーター(アダム医健)
下着の上から着用して、骨盤底を持ち上げて骨盤臓器の位置を矯正するサポーターです。
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ソコブラ(ユイワ)
ソコブラは、フェムゾーン(骨盤底)の違和感や尿漏れが心配で日常のベーシックな動きに憂鬱感や不安をお持ちの方が安心して日々使えることを目的とした補正下着です。
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参考文献
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Pelvic Organ Prolapse: ACOG Practice Bulletin, Number 214. Obstetrics and Gynecology. 2019; 134(5): e126-e142 DOI: 10.1097/AOG.0000000000003519
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Urinary incontinence and pelvic organ prolapse in women: management. NICE guideline 2019.
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Cundiff GW, et al. The PESSRI study: symptom relief outcomes of a randomized crossover trial of the ring and Gellhorn pessaries. American Journal of Obstetrics and Gynecology. 2007; 196(4): 405.e1-405.e8
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Hagen S, et al. Clinical effectiveness of vaginal pessary self-management vs clinic-based care for pelvic organ prolapse (TOPSY): a randomised controlled superiority trial. eClinical Medicine. 2023 DOI: https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2023.102326